ツチヤンの生活日記

将来にはのび太くんになりたい28歳 ♂ in 名古屋 (・土・) 。※このツチヤンはフィクションです。

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職員室には裸の王様が埋まっている No.045


委員会で部活に遅れた。

同じ委員の女の子と歩いて部活に向かっている。運動場では女子ソフトボール部と男子野球部が練習をしていた。監督に見つからない様にこっそりと混じらなければならない、と振り返ったところでサングラス越しに見つかってしまった。監督は業腹。ボクを怒鳴っている。陽が沈んでろくにボールも見えなくなったグラウンドでは部員達が立ち尽くしていた。

「日本の葉書は、五角形と直角で出来ている。分かるか?どうしてお前はそうも自己中なんだ。」
「監督が何を言っているのか全くわかりません。どうして葉書とボクに関係があるんでしょうか。」
「今度の修学旅行は静岡へ行く。そんなんでお前は行けるのか。考えてみたんだがお前がそんなんじゃあ行かないほうがいいかもしれないぞ。」
「失礼します。」

委員の女の子は気怠い視線を監督へ投げつけていた。2人で悪口雑言を振りまきながら運動場を離れた。彼女はソフトボール部だ。部室の前で挨拶をして別れた。

靴を履き替えてから帰ろうと、指定鞄をその場において下駄箱へ向かう。他にもいくつかの鞄が放置されていた。途中、雨が降り始めた。玄関の片側の戸は既に施錠されていたので、もう片方から入る。鍵を持った美術教師がゆったりと近づいて来た。挨拶をしたが、何も言わずただ微笑んでいた。靴を履き替えてから表に出るとすっかり土砂降りになっていた。ビニル傘を開いて鞄を拾いに行く。右肩に鞄を掛け、左手で水色のキャリングケースを持ち上げる。

校門に向かうと、ソフトボール部の部室前は練習が終わった様で後片付けをしていた。あの娘に挨拶をしようとしてみたけれど、表にいる部員たちに睨まれてしまった。中では着替えの最中だ。

帰り道、クラスメイトの女子2人が談笑していた。小走りに近づいて肩を叩いた。そのまま進み、横断歩道に差し掛かったところで「そういえば君のTwitterアカウント見つけたよ。」と言い放った瞬間、世界が終わった。

今日はよく眠った。


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あなたに No.044


今まで全く気に留めていなかったのに、つい頭の中のソレとアレとコレとを一か所に集めてしまったから大変大変。顧視した途端、ムクムクと大きくなってボクを一飲みにしてしまった。

つまり有り体に月並みに換言をするならば、要は今まで見ないふりをしてきたのだけれど、一度見てしまったからにはもう二度と目を反らすことは出来ず、更にその異形をいくら拭ったところで定着するのを助長するだけだった。

同意を求めるニュース。向こう見ずの自転車。おしゃべりな掃除機。一方通行の教壇。傾いたエスカレーター。無体な信仰。虐げられた烏の歌。欲しがりの井戸端。経時を待つ店員。逃走する猫の爪。真心の大量生産。生き埋めの土地。無休のエアコン。愛想笑いの呟き。二人組の小人。褪せたペットボトル。労苦を移す地下鉄。折り目のついた紙屑。食べかけの食パン。不朽の葉物。隣の客はよく柿食う客だ。誰も照らしていない電灯。機械の賃金。見下された蛙。明るい未来のエネルギー。寄り添う綿埃。補正されたインタビュー。自己中な太陽。濡れたドアノブ。薄明の茶の間。ルーチンな錠剤。包み込む副流煙。子犬の腹痛。何が可笑しい。役目を終えたビニル。ロックの亡霊。子供の気遣い。詰まった排水口。くたびれた雑音。不感症な白鷺。愛に擬態した生理。人のふり見て我がふり直せ。寡黙な段ボール。抱き合った針鼠。ヒステリックな携帯電話。踊る亀。信号機を待つ横断歩道。赤だ、進め。それこそ有り体に言えば見えないふりをしている。慣れた手つきで。

勝手にしやがれ」なんて歯噛みして、その実言わされているに過ぎない気がして口を閉ざした。

チンしたプラスチックの盛り合わせを喰らって、世界は今日も廻っている。



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大きくなったら何になりたい? No.043


常々亀になりたいと放言していたのだけれど、最近それは如何なものかと考えるようになった。自分の将来の事だ、真剣に深刻に辛辣に考え抜かねばならぬ。

亀の他にもう一つやってみたい事が出来たのだ。二兎を追う者は一兎をも得ずとも言う。どっちかにせいどっちかに。兎追いしかの山。つまり右か左か選び抜かねばならぬ。慎重に選ばねば泥水にドボンだ。そうそう二兎を追う者は一兎をも…。

あ?この俚言はおかしくないか?ボクは兎を1羽だけ追いかけていても捕まえられる気が全くしないぞ。運動不足に平和ボケ。途中足が攣って逃げられることはまず間違いない。よっぽど不思議の国のアリスの方がしっかり兎を追っていけるとすら思う。ギターボーカルを目指す者はリズムをも得ず、くらいにしとこう。うん、それがいい。

将来の夢なんていうとそれを表すのが途端に恥ずかしくなる。忌憚なく発していたのはそれこそ保育園に通っていた頃くらいなんかじゃないか。ボクはアンパンマンポケモンマスターになりたかった。しほちゃんに大笑いされてから公言するのは止めた。そうかあいつのせいか。

成人してから通っていた保育園の近くを通ったことがある。懐かしくなってつい立ち寄ってみたら、驚いたことに当時の担任の先生が花壇を手入れしていた。十何年間経過しているので相応に様相も変化しており、それに何より苗字も変わっていた。大変嬉しいことにボクのことを覚えていてくれて、会話も弾んだ。あの頃と比べて声も低くなったし何より敬語だし、きっと先生は僕以上にこそぐったい思いをしているんだろうな、なんて考えながら。

先生は昔のように問うた。
「大きくなったら何になりたい?」

僕は答えた。
「これ以上大きくなる予定はありませんよ。」

陽が斜めに差す園庭で、無邪気にはしゃぐ児童たちの中に、二つばかり笑い声が溶け込んでいった。

亀を諦めたボクは今、のび太くんになりたいと思っている。




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