一人称とは自分、または自分たちを含む仲間を指示する人称である。
僕、俺、私、わし、おい、あちき、あっし、拙者、小生、我輩。
僕たち、私たち。みんなは一人のために。
ラブアンドピース。
小学生の時分、「いつまでも『ボク』なんて言っていると馬鹿にされる。」と考えていた。
ただ、急に「オレ」なんて言い出すのも格好つけてるみたいで気恥ずかしい。
自意識を入り組んだ路地みたいに拗らせていつまでも一人称が曖昧だった。
中学生の時分、女子が皆せーので合図したように、一様に一人称を「ウチ」にしていることに気づいて、堪らなくなったことがある。
自分をなんと呼ぼうが勿論各人の勝手だが、流行り文句みたいに口を揃えるのに憤然としていた。
お陰で神経は失調し、腹を下す毎日。
便所に籠っては世の女子達に恨みを募らせておった。
ただそんなある日、「ラムちゃんも『ウチ』って言ってたなぁ」なんて気づいた途端、偏執はつるっと溶けてしまった。
爾後、腹の調子も悪くない。快便快便。つるっと。
さすがラムちゃん、さすが高橋留美子先生。
ああ、ありがとう。つるっとつるっと。
ただ、それからまた暫くしてラムちゃんの「ウチ」と流行りの「ウチ」の発音が違うことに気づき、再び世に呪詛を振り撒くのだった。うるせえ。