よく晴れて空は高く、陽光は燦々。
空っ風。心地よい寒気。
祭日。ある年の成人の日。
今年は、自分も成人として式に招待を受けている。
スーツを着用し、外套を羽織って家を出る。
足取りは重かった。
昨夜は旧友に再会すると思うと、気が高ぶってなかなか寝付けず、遅くまで大酒を浴びていた。
お陰で腹は焼けるようだし思考は焦点を結ばない。
熱感がする。
道中、招待状にある地図を再度確認する。
以前は気がつかなかった文句が見えた。
「20歳からは国民年金に加入しましょう」
ふざけやがって。
会場のホールには晴れ着の若人が多数立ち並び、申のようにはしゃぎまわっていた。
女性は皆、振袖に身を包んでいる。
豊かな彩色。華美。そして喧騒。
自動販売機みたいだと思った。
脇の本物で茶を買って暖をとった。
皆、再会を喜ぶ素振り。
空々しい。そんなに会いたかったんなら平生集まれば良いのだ。なんて茶を飲みながら嘯いて、いや違う。
彼らは久方ぶりに再会することによって感情を揺らしている。会えない時間が思いを育む。
つまり故意に会わずにいたのだ。
決して無精などではなく。
そうか、そうだったのか。
うん、素敵。得心得心。
満足に耽っていたが、しかし、あぁ腹痛。
手洗いに駆け込む。
長時間苦しんでいると、式は開会したようだった。
世間は便器に跨る自分など一顧だにしない。
君が代が聞こえる。天皇陛下万歳。
遅れて会場に入ると、壇上にはオッサンが屹立し、何かしら半紙を眺めながら呻いておった。
その視点はこちらに向かっていない。
嘆息しながら自分も着席する。
四周見渡すと元同級生の頭が櫛比している。
が、壇上に向かう顔はこちらにも一つとしていないのだった。
皆、電子機器をもてあそんだり、隣の者と密談しておる。
なんだこの茶番は。
むかっ腹が立ってきた。
一切を爆破してやりたい。
若人も自動販売機も便所もオッサンも君が代も何もかも。
爆弾なら丁度持ち合わせている。
昨日路地裏で拾った。
今度はオバハンの挨拶が始まった。
こちらを見ずに笑ってやがる。
偉そうにしやがって。
こちら側は上下左右を見て笑っている。
偉そうにしやがって。
ポケットから爆弾を取り出し、10分後にタイマーをセットして会場を去った。
その後のことは知らない。
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